暁杜

るろうに剣心 蒼紫巴 蒼操 小説ブログです。

挽歌 (一)

巴が小早川の療養所に世話になっていた頃―――。

縁は、千住の近くの古寺の境内にある松の樹の幹に、縄でくくりつけられていた。彼をさらって来たのは、油櫛蝋外(あぶらぐしろうがい)と言い、片目の男である。今、その横にはあの、蒼紫と戦った女忍者の葉霞と、あともう一人、酒禍上朱膳(さかがみしゅぜん)という男がいた。総髪の背の高い男で、長い大刀を腰に挿していた。

縁は泣き叫んでいた。

「はなせーっ、はなせーっ、この野郎!はなしやがれーっ」

「よくしゃべる小僧だな。」

朱膳は、うんざりした調子で葉霞に言った。

葉霞は、腰の刀を引き抜き、縁の頬にぺたりと押し付けた。

縁は刀にびくりとし、静かになった。

葉霞は面白そうに言った。

「ねえさんを取り戻したいかい?」

「おまえらが、ここに連れてこなければ、俺はねえちゃんと・・・。」

「はっ、そう思うだろうねぇ。いいかい、私たちはおまえのためを思って、ここに連れてきたんだよ?」

縁は言った。

「だったらこの縄を解けよ!なんでおまえら、俺を縛るんだよ。」

「仕方がないだろう?そうでないと、おまえは逃げてしまうからね。いいかい。ねえさんは、幕府に狙われているんだ。あたしたちは、それを阻止するべく立ち回っているんだよ?ま、おまえに言ってもわからないだろうがね。」

葉霞はそう言うと、忍者服の中から小さい緑の光る破片を取り出した。

「おまえはこれを見たことはないかい?」

縁は目をぱちくりさせた。やはり子供である、誘導尋問を受けているとは思っていない。尋ねられるまま縁は口にした。

「ねえちゃんの持っていた石と似てるな・・・。なんだそんなもん。」

「おまえのねえさんは、これを持っているんだね。それだけ聞けば十分さ。ま、油櫛さまが、おまえしかさらえなかったのは、残念至極と言ったところかね。」

油櫛は言った。

「おいおい。俺が来なけりゃこのふたりはそのまま、幕府の役人に面通しされているところだったんだぜ。」

「それは困るからね・・・・。そこはダンナの働きがあってこそ。ただ、女を連れてこられなかったのは、本当に残念だ。」

それまで黙って聞いていた、朱膳が横合いから言った。

「それはしまっておけ。大切なかけらだ。藩のやつらがそのような品を隠れて作っていたという証拠の品だからな?」

「そうね。」

葉霞はそう言うと、石を元通りのところにしまった。

油櫛は縁に言った。

「小僧、何か剣を使えるのか?」

縁は答えた。

「す、少しなら・・・・。」

「だったら、幕府の役人どもからねえさんを盗みだせ。今おまえのねえさんは、御庭番衆に囲われている。」

「御庭番衆?」

「幕府直属の忍者集団だ。」

「おまえはちがうのか?」

「ちがうとも。ま、関係はしているがな。では縄を切ってやる代わりに、俺たちの言うことを聞け。悪いようにはせん。」

縁は迷った。この者たちの気配には邪悪なものを感じる・・・・しかし、姉の巴の消息は、この者らに尋ねるほかないそうだ。しかも姉の持つ石が関係しているのだという。縁は答えた。

「わかった・・・・・俺、おまえらの言うことを聞く。ただし、ねえちゃんをどうこうしようっていうんなら、貴様たちを容赦しないぞ。」

「ははは、威勢がいいことだな。」

縁は自分が完全に子供扱いされていると思った。しかし、朱膳らは縄を切ってくれた。

「さて・・・・・おまえ、連絡係はできるかい?剣は使えないようだが。」

葉霞はにやりと笑って言った。

縁は答えた。

「うん。」

「じゃあしばらくは、この寺にいな。そのうち、用があるならおまえを呼び出す。勝手に逃げようなんて算段はしないことだね。麗月。」

葉霞が呼ぶと、松の上からひらりと黒い影が降り立った。

「お呼びですか。」

縁の前に、忍び装束の女が一人立っていた。

「おまえ、この小僧の見張りを頼むよ。私たちは、ちょいと野暮用があるんでね。」

「承知しました。」

葉霞、油櫛、朱膳の三人は、縁からはなれて寺の山門から出て行った。

縁は自分も出て行こうとしたが、すぐに麗月の手裏剣にさえぎられた。

麗月は言った。

「ぼうず、おとなしくしていないと命の補償はないよ?」

縁は唇をかみ締め、麗月に従って寺の建物の中に入った。

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