暁杜

るろうに剣心 蒼紫巴 蒼操 小説ブログです。

爪牙 (六)

小石川の療養所は、隅田川からかなりの距離があった。途中、自分はどうしてこの者たちと一緒に歩かなければならないのだろう、縁はどうしたのだろうと、巴は不安に思った。しかし、奉行所に帰るのは、縁を取り戻すのに得策とは思えなかった。町並みの真ん中に江戸城天守閣が見えてきた。小石川からは見えるのだった。巴はそのころにはこの者らは、おそらく御庭番衆ではないかと検討をつけていた。

───私の持っているもの・・・・あの小石の入った袋・・・・父と母の形見の品ではないか。

巴はそれも思い当たった。どうしても持っていなくてはならない、人前に出してはならない、と固く母から言い渡された、小さなぽち袋に入ったそれは、緑色の不思議な石であり、暗がりに置くと自然に発光する石だった。ただその色はあまりにもどぎつい緑色なので、巴はあまり好きではなかった。なぜこんなにもこの石は光るのか。巴はいつもそう思った。見るたびに不吉な感じを受けて、父が海の向こうに行ってしまい、母が病死してしまったのも、みんなこの石のせいではないかと巴は思ったりもするのだった。

療養所について、寺のような建物にかくまわれた巴は、彼等御庭番衆たちに布団に横になるように勧められた。巴は疲れていたので、布団に入ったが、自分ばかりが縁を置いて休むのが悲しくなり、枕を涙で濡らした。御庭番衆の者達は、すぐに退出し、巴が泣いているのに気づいた者はいなかった。

ただ、部屋の上がりかまちでこのような会話が交わされていた。

「蒼紫、どうして回光院に連れて来なかったのだ?幕府の役人が待ち構えていたのに。」

「手間取りまして。弟を拉致されました。女も怪我を負い、疲れております。」

「なるほどな。それは失態というわけだ。しかしわしの命令を勝手に変えるとは何事じゃ。上様にご報告したい事柄があったのに、これではまた一から振り出しに戻りそうじゃ。女の身のあらためは明日にでもするとしよう。」

老人と蒼紫の短い会話───それは、すぐに廊下を歩いていく足音とともに遠ざかった。

───寂庵さんではないわ。誰だろう?あの声は・・・・・。

それが、先代御頭と呼ばれる人物の声だと知ったのは、巴はもっと後のことであった。

───縁、無事でいて・・・・お願い・・・・!

巴はただ今は、一人で泣くよりほかなかった。

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