暁杜

るろうに剣心 蒼紫巴 蒼操 小説ブログです。

死ガ二人ヲ別ツマデ

4.死ガ二人ヲ別ツマデ

「それで姉さんは死んだのだな?」

「そーだよ・・・・・。」

「抜刀斎は巴の死体をどうした?」

「あいつは大切に荼毘に伏したよ・・・・住んでいた家ごと燃やしたんだ・・・。」

催眠状態の縁が、陶然とした口調で話している。

蒼紫は縁の前でしゃがみこんで、告白を聞いていたが、やがて立ち上がった。

「御頭、今回の件は失敗ですな。」

かたわらの般若は蒼紫に冷たく言った。

「最初から危惧はしていたのです。あのような者に何の任務が務まるかと思っておりました。御頭さまは、早く目を覚ますべきでした。巴は忍びとしては、下の者。抜刀斎の寝首すらかけなかったのですから。」

「では、貴様になら、抜刀斎の顔に傷をつけることができたのか。」

「それは・・・・しかし、その程度のことしかできなかったのですから。」

「黙れ!」

蒼紫の額に青筋が立ちそうな気配であった。

般若はひっ、と首をすくめた。

蒼紫の手にいつの間にか、小太刀の小さいほうの剣が握られ、自分の喉首に突きつけられていた。

蒼紫は言った。

「巴はくの一として落とされ、使い捨てとなって死んだ。その無念さが、貴様などにはわかるか。」

蒼紫のすさまじい気迫に、般若はあやうく次の言葉を呑みこんだ。

あの女がそのような―――般若の目には、なよなよとした、白い、暗そうな顔の、地味な忍者の女の姿しか写っていなかった。

忍びの里にはあれ以上の、女を武器にしているような女たちがうようよといた。

そのような華やかな女たちには目もくれず、蒼紫は自分にとっては禍根となるような、巴を選んだらしいのだ。

般若はその時、蒼紫の暗い笑い声を聞いた。

蒼紫の顔に、ゆがんだ笑いがはりついていた。

「元はと言えば、江戸の上目付けが、今回の件を仕組んだのだ。抜刀斎には、御庭番衆の者は勝てるわけがない―――なるほど、その通りだ。しかし、だからと言って、くの一を巴にやらせるなど、俺にとってはもってのほかだ。いつかあの者たちの首を討つ。巴を殺した抜刀斎はのみならず、巴をそのような任務におとしめた輩は全員血祭りにあげてやる。その時には般若、貴様もいてくれるな。」

蒼紫の声は、心中の傷の血潮をふりしぼるかのようであった。

般若はあわてて答えた。

「そのような事、御庭番衆が成り立ちゆきません。」

「俺の御庭番衆だ。誰にも口出しはさせん。先代はもういない。そうだな、般若。」

「御意・・・・。」

般若はかろうじて、蒼紫に服従の意を示した。

狂っている―――御頭は、あんな女のために、狂っている。

般若がその時思いついたことは、あの先代御頭の孫娘である操を教育して、この蒼紫に対しての抑えにするということであった。

幸い、蒼紫が保護した操は、蒼紫が物静かな青年であると見て、兄妹のように慕っている様子だった。

しかし、今の蒼紫の様子を見れば、どうなるであろうか。

―――それを、なんとか操さまのもとに、下るようにいたさねばならぬ。翁殿によく言って聞かせねば。

幼い少女に興味を示す者は多い―――この蒼紫にも、その性癖があればいいのだが―――般若は思った。

忘れることです、蒼紫さま・・・・・あの女は現に抜刀斎の妻となったのです・・・・・・・・・・・・。

蒼紫は荒れ狂う雪の道を一人、歩いていた。

何もかもを、こんな風に真っ白にしてしまいたかった。

白はおまえの色だな、巴。

巴・・・・巴・・・・巴・・・・・。

『俺は弱い男なんだ・・・・・忍びの掟からは逃れられんのだ・・・・・。』

あの時・・・・・俺の何を許してくれたのだ・・・・・あんな俺を・・・・おまえは・・・・・優しく抱いて・・・・。

あの夜からの二人は、溶けるようだった。

いっそのこと、溶け合えればよかった。

巴は俺のことを、抜刀斎には何も話さなかったらしい。

そうでなければ、抜刀斎が巴を後生大事に葬るわけはない。

俺もまた、おまえのことは、抜刀斎には絶対にあかさない。

ただ―――『最強の華』を手にするためにだけ、抜刀斎の前に俺は立つ。

死が二人を別つまで、おまえとは一緒だと思っていた。

そうではなかった。

死すらも引き裂けない絆で、俺とおまえは結ばれているのだ。

「巴!」

蒼紫は吹雪の中で、孤独な獣のように叫んだ。

真っ白く狂うように吹き付ける雪嵐は、蒼紫の叫び声をのみ込み、風の中に吹き消していった。

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