暁杜

るろうに剣心 蒼紫巴 蒼操 小説ブログです。

島原 下 一

雨が降っていた。

密集する灰色の瓦屋根り上に、天から細い雨が降っていた。

操は濡れ縁に座っていて、その手にはお手玉の袋が握られていた。

苦無は全部、翁が危険なので片付けたが、今でも操は包帯を巻いたまま、苦無をしまったあたりを探そうとする。お手玉は、その代わりだった。

お近が操に声をかけた。

「操はん、そこに座ってはると濡れますえ。」

「大丈夫か、操。」

翁が操に軽く手をかけた。すると操はいきなり、その手を振り払った。

「いや。」

「な――なんじゃ。」

「翁、操はん今日は気が立っとるんです。」

「しかし、わがままになってきとるぞ。ワシの言う事を全然聞かん。」

「目が見えへんのどす。目あきの人には、わかりまへん。」

お近はそう言い、操の手を取ってゆっくりと立ち上がらせた。

「操はん、翁も心配してはるのどす。優しうしてあげんといかんわ。」

「うん・・・・・。」

操はかすかにうなずいたが、その表情は硬かった。

部屋に戻ると、お近とお増が操の目の包帯を取り替えて、その黒髪をほどき、櫛を使ってまた結直した。

と、操がつぶやいた。

「お近さん。」

「なんどす?」

「黒さんも白さんも、家にいるよね。蒼紫様は独りでまた何処かに行ったの?」

「はあ・・・・そうどすなあ。あのお方はやっぱりもう、御庭番衆とはちがうみたいやさかい。操はんの事も、兄弟のように思うてはったんでしょう。」

「私あの時、ついて行けばよかったのかな。」

「あの時?出て行かはった時の事どすか。それは操はん、目が治ってへんのやし。」

「違うわ。薫さんは何があっても緋村を信じていたじゃない。緋村がたとえ、人斬り時代の流浪人に戻っても、東京から着いてきたじゃない。だから、私も、翁やみんなを捨ててでも―――。」

「操はん、それは―――。」

お近は言葉を失った。が、思いなおしてきっぱりと答えた。

「あの、翁と蒼紫様が殺りおうた時のことは、早う忘れはった方がよろしいどす。翁は操はんをここまで育ててくれた、大事な恩人どす。それを、そないに言ったらあきまへん。それに剣心さんは優しいお人やさかい、ああして人がついてきはるのどす。百三十八針も縫うようなケガさせはった時の蒼紫様とは。」

「同じよ。」

操は何かをつきはなすように言った。

「緋村は抜刀斎だったんだもの。昔あんな風にたくさん人を殺してきたんだもの。」

「操はん・・・・。」

「翁は私を大切に育ててくれたけど、それは私が先代御頭の孫娘だったからよ。もう目が見えないから、何の役にもたたないし。」

操は顔に自嘲の笑みを浮かべていた。

お近は答えた。

「操はん、それは言うたらあかん事です。それに蒼紫様かて操はんが、先代御頭の孫やったさかいに、あんな北陸まで行って拾わはったんでしょう。そんな考えでは、治るもんも治りません。」

お増がお近の袖を引いた。

「お近はん、ちょっとキツイどすえ。」

「いいのや。病人さんのワガママやさかい。」

お増は心配気だったが、お近について部屋を出て行った。

操は独り、布団に座っていた。と、ポツリと涙がお手玉の上に落ちかかった。

「・・・・・ふ・・・・・。父さま、母さま・・・・・あたしもう、死にたい・・・・。」

青い夜のとばりが、部屋に静かに下りてきた。