暁杜

るろうに剣心 蒼紫巴 蒼操 小説ブログです。

島原編暁

あとがき

映画「耳をすませば」の中で、主人公の少女・雫が、自分の書いた小説を読んだ西老人の前で叫ぶセリフがある。 「ウソです。ウソです。書きたいことがまとまっていません。後半なんかメチャクチャ。自分でわかっているんです。」 私の今の心境もこれに同じで…

恩寵 九

それから数日後、翔伍は村人らとともに、港でオランダ船に乗船していた。 その中にはロレンゾ庄三の姿もあった。 この若者も小夜の死には手放しで泣き、エルステンが建ててくれた小夜の墓の前からなかなか去ろうとはしなかった。 翔伍も共に祈った。 庄三は…

恩寵 八

翔伍は気がつくと、見知らぬ病院のベッドに何時の間にか寝かされていた。 傷が痛むが、何とかベッドから起き上がった。 ―――助かったのか。 半ば呆然として白い壁を見つめていると、病室のドアが開いた。 看護婦ともう一人、恰幅のいい紳士が入ってきた。外国…

恩寵 七

蒼紫は銃の包囲の中に立っていた。 「・・・・・あまり俺を怒らせるな。」 翔伍は蒼紫の言葉に冷笑をかえした。 「その女を哀れに思うのか。」 蒼紫は鋭い目つきで見返して言った。 「貴様の妹は、死んだ。」 「なに。」 翔伍の顔に動揺が走った。 「小夜が―…

恩寵 六

翔伍の胸のメダリオが、キン、と高い音を立ててはずれた。 「小夜の身になにか・・・・?」 拾いあげて、翔伍は不吉な予感を払いのけた。 ふっ、と京都で斬りあいをした時の、蒼紫のことも思い出された。 「まさか――な。」 予感を打ち消すように、翔伍は采配…

恩寵 五

エルステンは本島に上陸してから、すぐに馬を二人の男にとめられた。 「止まれ、止まれーっ。」 銃を持った、クリスとミスター山東だ。 エルステンは二人に言った。 「私はオランダ領事館のエルステン・ロペスだ。天草翔伍に会いたいのだ。通してくれ。」 ク…

恩寵 四

「あなた方によく言っておく。新しき葡萄酒は新しき皮袋に入れなければならない――――。」 天草諸島の中で、一番大きな本島の天草灘側には二つの天主堂がある。 長崎の浦上天主堂に比べれば、規模も小さく粗末な建て方だが、今そこで天草翔伍は、集めた群衆を…

恩寵 三

やはり朝早く。 巻町操はゆっくりと、静かに起き出した。 彼女はすべての神経を研ぎ澄ませて、家の外へ出た。 誰にも気づかれていない。 雨の匂い。 その強くなる方向へ、彼女の足は歩いていく。 やがて高台に出た。 小さな空き地に木立ちが植わっている。 …

恩寵 二

その同じ頃、東京では川路利良と斎藤一が山縣卿に呼ばれていた。 山縣はいら立っており、川路は額に汗をかいている。 山縣は言った。 「残念ながら福岡の師団が島原へ向かうことに決定した。」 川路は驚いた。 「何故です。西南の役から後、国内の沈静化には…

恩寵 一

長崎市街には外人居留地と呼ばれる場所がある。 その海に近い一角を、一人の大きなすげ傘をかぶった少年が、小走りに走っていた。 と、彼はオランダ商館の前で立ち止まった。 「ここだ。」 手にした四つ折の封書と引き比べると、少年は洋館の扉を叩いた。 中…

島原 下 四

「あの人、死んだの」 洞窟の中からやっと出たとき、小夜はたずねた。 蒼紫は答えた。 「多分。」 モリガン朧のことを指して言っているのだった。 そばには逃れた、辰政がいた。 「傀王の部下はあれで全部なのかい。」 辰政のたずねるのに、小夜は首をふった…

島原 下 三

朧は蒼紫に向かって言った。 「恐ろしい男・・・・だが、傀王様の身を汚すわけにはいかない。それで私がこうして出向いてきたというわけさ。さっきはとんだご挨拶だったね。」 朧は槍を回転させ、蒼紫に狙いを定めた。 「なぜ貴様は傀王様の邪魔をする?そこ…

島原 下 二

蒼紫は暗がりに倒れていた。 傀王の放った罠により、地底に埋められたのだ。 彼が間一髪で地底中央部から逃れられたのは、奇跡と言っていいかも知れない。 身についた忍びの術がとっさに働いたのである。 ――しかし、若い頃ならば身軽に身を転じて、傀王にと…

島原 下 一

雨が降っていた。 密集する灰色の瓦屋根り上に、天から細い雨が降っていた。 操は濡れ縁に座っていて、その手にはお手玉の袋が握られていた。 苦無は全部、翁が危険なので片付けたが、今でも操は包帯を巻いたまま、苦無をしまったあたりを探そうとする。お手…

島原 上 六

「ここだ。」 庄三がさっきの潮のたまっている武器庫の木の蓋をはずした。奈落へ通じる暗黒の道が見えた。 「ここは抜け道になっている。傀王らの居場所の館までつながっているんだ。四乃森さん?」 「なるほどな。」 辰政が横から言った。 「おい、そんな危…

島原 上 五

小夜は不意に振り向いた。誰かがこの小礼拝堂に近づいて来る。何人かの足音だ。 「誰?ロレンゾとガスパルなの?」 と、部屋の外で押し問答をする声が聞こえた。 「どうした。早く開けろ。」 「…開けない。絶対にここは開けないからな!マグダリヤ様を人質に…

島原 上 四

(四) その頃さっき逃げたマグダリヤと庄三は、やはり洞穴に作られた小さな礼拝堂の間にまでたどり着いていた。 マグダリヤは疲れきった様子で、床に座り込んでいる。 天窓には綺麗な色硝子のステンドグラスがはめ込まれ、そこから陽の光りが差していた。 「…

島原 上 三

その日の昼前、海岸線を走る二人の男達がいた。辰政と猩々だ。 「居やがらねぇ。くそッ、先に行きやがったか。」 「だから怒らせない方がいいと言ったんだよ。」 「でもだいたいわかるぜ。行き先もひとつしかねェ。島原だ。」 辰政は蒼紫の姿がいないので、…

島原 上 二

夜―――――。 今、彼ら三人は先程の場所から更に目的地に近づいた、やはり海岸線で夜営をしていた。蒼紫は焚き火をする辰政、猩々らから少し離れた所に座っていた。眼前に黒々とした海が広がり、夜風が痛む頬をなでていた。 ―――武田観柳の館か。 今頃思い出すと…

島原 上 一

狭霧に船の黒い影が浮かぶ湾を見渡せる位置に、その洋館はあった。 黒檀をふんだんに使った黒の調度でまとめられたその一室には、やはり海をよく見下ろせる窓があった。 その部屋の中を、今、背の高い金髪の女が、優雅な身のこなしで歩いていた。 女はサイド…

目無し 七

「あれ。蒼紫様。」 お増はその昼さがり、操の部屋に膳を持ってきてのぼってきて少し驚いた。 蒼紫が無言でそこに座っていたからである。 「操はんだいぶようならはりましたえ。落ち着いて話はるようにならはりましたさかい。」 そう言って、操に食事をとら…

目無し 六

翌日から蒼紫の探索が始まった。 蒼紫は翁をほぼ無視して出かけた。ついに翁は言ったものである。 「この剣きちがいめ。操の面倒もほったらかしにしおって、わしに何故諜報活動をやらせん。京の都に網の目のように張り巡らせたわしの探索網で―――。」 「警察…

目無し 五

蒼紫は操を抱え上げると、剣を腰に斜めに差し、黙って門の方へ歩き出した。 累々と、警官隊の傷死体が続いている。蒼紫らが歩いた後も点々と血の華がにじんだ。 ――操。 蒼紫自身も負傷していたが、操もけがを負っているらしい。背負っていると、手に血液のぬ…

目無し 四

その夜は風が強かった。 風がうなる度にさかんに木戸がバタバタと音をたてた。 「操はまだ戻らんな。」 翁は文鎮時計を見た。もう九時を過ぎていた。 「そういえば蒼紫様も戻りおへんなあ。」 お近、お増は蒼紫の出先が警察とは知らない。 「二人でどこぞへ…

目無し 三

京都府警は河原町を下がった京都府庁の隣にある。明治維新の後に建てられた、煉瓦造りの建物だ。 今、その廊下を一人の青年が歩いていた。引きずるような長いコートを着ている。と、青年は一室の前に立ち止まり、扉を開けた。 扉のすぐ中では電信係りの女性…

目無し 二

操は低くつぶやいた。 「蒼紫様、またいなくなるの。」 「なんじゃ聞いとったんか。」 パチンパチンパチン。 翁は盆栽にはさみを入れていた。操が何時の間にか縁側の横に立っている。操は苦無を握っていた。 ―――また始まったか。 剣心らの前では「ワガママ娘…

目無し 一

沢下条張は五月の夏の蒸し暑さの中を、京の、七条大橋の上から西に向かって歩いていた。橋のたもとに七条警察がある。そこから出て葵屋へは二条城の東だから、ちょっとした距離になった。 ―――ちょッ、めんどくせえ。斎藤のヤロウ人をこき使いやがって。俺ァ…

慶応二年春 二

操は目を覚ました。 ――私は今、京都の葵屋にいる――あの頃のことを今夢に見るのは、何故かわかっている。 自分は寂しいのだ――あの十本刀と戦って勝利し、あの人も戻ってきたというのに、あの人は決してもう昔みたいに私を見ようとはしないからだ。 昔みたいに…

慶応二年春 一

月が翳った。 みるみるうちにぬばたまの闇を増す城の城壁に、孤影が四ツ、降り立った。 「蒼紫、ゆくぞ。」 蒼紫と呼ばれた中の一番年若い青年が、その言葉にうなずいた。 「この仕事は公儀隠密の仕事としては、なかなかのものになりそうだ。命令はたいした…