暁杜

るろうに剣心 蒼紫巴 蒼操 小説ブログです。

通暁(二)

般若が付くと言うのを断り、蒼紫は馬に乗った。恵那の山にあるという葉霞たちのアジト、だがその経路は幾筋か道筋がある。どのルートにあるのか見当はつかなかった。馬を走らせている間も、巴たちの安堵が気がかりでならなかった。あの時頭目の命令を無視し…

通暁(一)

同刻篠つく雨の中、傘をかぶった男が一人、湯煙のたなびく下諏訪にある旅籠の中に入っていった。連絡係だ。入り口で合言葉を言い、男は文を中の中年の男に渡した。中で男は文を見た。 「動くか。」と男は言った。闇乃武の辰巳であった。 「辰巳殿、江戸の御…

道行 (四)

巴たち一行は中山道を諏訪方面に下っていた。今のところはいたってのどかな道中であるが、以前と変わりなく蒼紫は無言だったし、巴はすっかり怖くなって笑顔がその顔から消えていた。碓井越えの前の時とは何もかもが違っていた。蒼紫のことは忘れるように、…

道行(三)

真田の里は、街道筋から外れた、小高い丘の上にあった。背の高い杉の木が輪中の村のように囲っている。当主は洩矢御沙薙(もりやみさなぎ)という少女で、何代も続く真田忍軍の正当な血筋の、頭目を名乗るにしては幼い姫である。しかし冷酷な性格であり、蒼紫…

道行 (二)

蒼紫たち一行は、春の気配のする街道筋を西に下っていた。宿を下向し、いよいよ関所が近づいてきている。巴と縁を中に入れて、一向は縦一列で歩いている。 巴は関に入る時は緊張した。江戸に入る者、出る者を厳しく吟味する場所だ。彼らは御庭番衆を名乗って…

道行 (一)

蒼紫はまだ年若いいでたちで、ある山の峠近くの薄暗い小屋の中で、先代と後に呼ばれることになる老人と囲炉裏の火にあたっている。外は吹雪である。不意に、小屋の戸が風ではなく、はたはたと鳴った。 「あけてあげなさい。」と、先代が言うのに、蒼紫は戸の…

挽歌 (五)

「貴様ら、我が屋敷を何と心得る。やりたい放題、許すべきものにあらず──。」 巴ははっとなった。老人の声だった。しかし、その声は冷たいものであった。次の瞬間、朱膳の体は巴の前からぱっと後ずさった。 あやういところで、朱膳は老人の高速で走る剣から…

挽歌 (四)

巴はその夜、床についていた。なかなかその夜は寝付かれなかった。寂庵の言った父の仕事、そして母の形見を蒼紫に預けてしまったこと・・・・・それらが巴の心をちりちりと焦がし、揺さぶり続けた。やはり蒼紫に渡すべきではなかったのではないか?自分は軽…

挽歌 (三)

「そのガラス石だが。俺に預からせてくれないか。」 声に巴ははっとした。蒼紫がいつの間にか、彼等の座っている板敷きの隅に立っていた。 巴は蒼紫に会って以来、その顔を見るとドキリすることが多かった。彼は、思いたくないが背格好や顔立ちが亡くなった…

挽歌 (二)

そのころ、巴は小早川から江戸城近くの御庭番衆の番舎のほうに居を移されていた。小さな中庭がある、小ぢんまりとした邸宅である。真ん中に何部屋かの道場と茶室を備えている。巴はそこの、奥の間に通されていたが、縁についての質問には誰一人として答える…

挽歌 (一)

巴が小早川の療養所に世話になっていた頃―――。 縁は、千住の近くの古寺の境内にある松の樹の幹に、縄でくくりつけられていた。彼をさらって来たのは、油櫛蝋外(あぶらぐしろうがい)と言い、片目の男である。今、その横にはあの、蒼紫と戦った女忍者の葉霞と…

爪牙 (六)

小石川の療養所は、隅田川からかなりの距離があった。途中、自分はどうしてこの者たちと一緒に歩かなければならないのだろう、縁はどうしたのだろうと、巴は不安に思った。しかし、奉行所に帰るのは、縁を取り戻すのに得策とは思えなかった。町並みの真ん中…

爪牙 (五)

巴の乗る舟は、南千住のカーブのあたりにさしかかった。巴は蓑をかぶって弟と舟の中で息を潜めながら、どこかで斬り合いの音を聞いたような気がした。身が縮こまった。この老人は自分をどこかに売るつもりはなさそうだ。しかし、このような世界に身を置いて…

爪牙 (四)

道は平坦であった。しもた屋の家々は静まり、軒を連ねていた。 突然家がまばらになって、葦原がしげっているところに木をつらねただけの船着場があった。 老人は、「そこから乗りなさい」とそこに泊まっている一艘の手漕ぎ舟に巴が乗るようにうながした。 そ…

爪牙 (三)

巴はその茶店の座敷に通されると、すぐに三味線を弾くように言われた。 巴以外にも二人ほど、容貌の目立たない女がお囃子をたたいていた。 巴は集まっている男たちを眺めた。 いずれも浪士風の者ばかりだが、車座になって密談をしていて、酒を盛んに注ぎあっ…

爪牙 (二)

話はそれより一ヶ月ほど前にさかのぼる。 雪代巴の婚約者・清里明良は、講武所を出た帰りに、一人の男に呼び止められた。 男とは何度か表通りの普通の茶店で会って、京にのぼる相談をしていたのである。 清里はにっこり笑って男に言った。 「飯塚さん。決心…

爪牙 (一)

黒の着流しを着た浪人姿の侍が、肩で風をきって江戸吉原の一角の茶屋に入って行った。 腰の刀を男衆に預けると、浪人は物慣れた様子で、座敷にあがった。 ぼんぼりが開け放した廊下に向かって灯っている。 緋毛氈を敷いた上に、客の「なじみの」妓が、いた。…

にび色の空が何処までも広がっている先に、一羽の鷹のはばたきがあった。 鷹は、まだ歳若い少年の手から中空に放たれたのであった。 少年は藍色の庭着のようなものを着て、高く髪を後ろに結わえていた。 その様は、遠目にも白く、すらりと浮き立って見えた。…

◆あとがき◆

今回、まずあやまらなければならないことがあります。 最初の登場人物紹介であげた、翁の出番をまったくつくれなかったこと。 他にもたくさんあるでしょうが、まずこれは明らかに私の力不足です。どうもすいません、翁の出番がなくなってしまって。翁はもち…

散華 四

京に上ってから、巴は日記を付け出した。 ひとつは任務のため、もうひとつは自分の気持ちを見つめなおすためであった。 だがしかし、巴は御庭番衆のことや、蒼紫のことについては何ひとつ書かなかった。 いつかこの日記を、抜刀斎が見るかも知れない・・・・…

散華 三

―――操。 その光景は、蒼紫の中のある部分に火をつけたのだった。 幼い操に会っていたあの時、すでに何人かは知らぬが、監察の目を免れ得なかったとは――――。 もちろん、目の前にぶら下げられているこの操の死体は、本物ではない。 外法の忍術をもって、何者か…

散華 二

蒼紫は馬から降りると、泥炭地の様子をうかがった。 ―――十絶の陣。御頭のいるところまで、十数人の盾がある。 蒼紫は小太刀をかまえた。 待つこと数間。 まず、彼方から鎖釜が飛んできた。 「お命、頂戴。」 鎖釜を振りまわしている忍びが言った。 ――これは…

散華 一

「するとやはり蒼紫は、あの女を抱かなかったか。」 闇の武の辰巳は、中条からの報告を聞いていた。 辰巳は水ギセルをふかしている。 中条は言った。 「まあそういう男だということですぜ。据え膳を断るなんざ、そうそうできる事じゃねぇとは思いますがね。…

仇花 四

巴はゆっくりと目を開いた。 あのお堂から、自分が運ばれ、日本間の布団に寝かされていることに巴は気づいた。 ―――私は一体・・・・・・。 巴は全身が疲労していて、身動きするのにも痛みが生じることに気がついた。 あの妙な儀式のせいだとわかっている。 ―…

仇花 三

それから約三日後。 中条の言葉にあった通り、御庭番衆は秘密裏の会合を開いていた。 それは江戸城の武家屋敷の中に建てられている、秘密の集会所にて行われた。 議題のひとつは次期御頭の選出について、もうひとつは巴の処遇についてである。 会合には幕府…

仇花 二

その日の昼下がり、巴は薪を離れから台所へ移動するのに、一人で運んでいた。 何度目かの往復で、積まれた薪の山がなくなった頃、その男は現れた。 「よう。」 築地塀によりかかるようにして、薪を持った巴の前に、黒装束の男が立ちはだかった 目だけが覆面…

仇花 一

空に灰色の雲がたちこめる湖畔を、二頭の馬が駆けていた。 先を行く馬には、美少女が乗っていた。少女は長い髪を頭の上で二つに分けていた。 真田忍群を統括する洩矢御沙薙(もりやみさなぎ)だ。 その顔には、美しいが、ある種の冷たさが同居していた。 彼…

元治元年春 四

巴は御庭番衆預かりとなったが、当面はまだ、預かり置きの状態であった。 巴が危惧したようなことは、当座の間はなかったのである。 ただ、九ノ一としての簡単な心得、あまりしゃべらないこと、行った家屋をよく観察することなど、の訓練とも呼べないほどの…

元治元年春 三

雪代巴は、江戸東町奉行所の門の前まで来て、弟の縁に言った。 「ここから先は私一人で行きます。おまえは外で待っていなさい。」 「ねーちゃん・・・・。」 縁は不服そうな顔をしたが、巴に従った。縁は言った。 「清里さんの仇を討つんだろ、ねーちゃん。…

元治元年春 二

「母上、母上。」 蒼紫は夢を見ていた。 それはまだ幼い日の自分―――無力だった頃の自分だ。 必死で少年の日の蒼紫は木戸をたたいている。 中には母がいるはずなのだ。 母が―――死んだ父とは別の男たちと。 蒼紫はそれを認めたくないのだった。 何故病弱な母が…